第105回講演会(探求の会合同講演会)
食文化と〝食„関連産業の変遷に思う
開催: 2015年5月16日 14:00~17:00
講師: 片岡寛 一橋大学名誉教授

今回は「探求の会」との初めての合同講演会ということで、探求の会が選ばれたとびきりの講師とその運営に大いに感謝する会合であった。
講師の片岡先生は化学科を卒業後、一橋大学の商品学を担当されただけあって、話の幅が非常に広く面白い内容だった。 脱線あり、アドリブあり、それでいて非常に示唆に富んだ講演の内容を以下に示す。
- 消費生活における欲求段階の変化
マズローの欲求5段階説に沿うと、日本の戦後復興、高度成長期は第1、第2段階に相当する。第3段階の社会的欲求は「人並み」を目指して洗濯機・冷蔵庫・テレビといった三種の神器の購入に走った。そして第4段階では、ブランド志向で他との違いを追い、現在は第5段階の独自の生活欲求を実現しようとしている。 - 消費生活の基本フレーム
こういう消費生活の発展段階の基本原理を考えると、料理といった家事労働に従事する時間を加工食品や出前サービス等の購入で代替えし、自己の趣味としての料理時間の増加で自己充実を図る方向に向かう。 - 家庭内生産の崩壊と市場依存の生活
これを「食」における家庭と産業という対比で見ると、従来は自分で弁当を作って出勤していた「内食」から、福利厚生を目指す企業の社員食堂等の「外食」時代に移り、今は企業の経費節減で、社員が外で弁当を買って内で食べる「中食」の時代になり、食品産業は今この中食にしのぎを削っている。 - 消費の変化に影響する要素
このような食品産業の進化は、国民の生活レベルの向上に基づく「Needs:需要」に追随することで行われてきた。しかしこれからの人の欲求は掴みどころのはっきりしない抽象的な「Wants:欲求」の時代に入り、今後の食品産業が何処へ進むかは見通せない時代になっている。 例えば、日本のサービス満載の携帯電話が突如iPhoneに席巻されるような時代である。 - 「和食文化」の普及
「和食」が世界無形文化遺産に登録された。そもそも日本には「食」を「文化」と思っていない節があったが、今では日本の食のスタイルが世界の注目を浴びている。糸をひかない納豆とか、こぶ高菜とかがヨーロッパで受け入れられている。日本の特殊味を押さえて「和」の特長を引き出す「標準化」のプロセスを経て、和食を文化として世界に普及させることが重要である。
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