第14回講演会
開催: 2007年4月21日 16:00~19:00
講師: 占部 浩一
- どうしたら騙されないか
基礎科学マイスター占部浩一講師の「パラドックス」は、実に難しかった。でも、時間が経つと、混沌の世界に一筋の真理が描かれたような、そんな清涼感ともいうべき余韻が残るから不思議だ。
パラドックスの手法を用いて攻められたら、多くの人はイチコロだ。現に、米国の敏腕弁護士は、黒いものでも白と認めさせる程の攻略技を持つ。
善良な日本人が、不当に扱われないようにとの思いから、占部さんに手伝ってもらいながら、少しでも理解できるよう一部につき補足(蛇足)を試みた。不審な点があれば、ご指摘願います。
全体については、レジメをご覧下さい。 - [問]:「君はもう奥さん(旦那さん)を殴ってはいないのか?」。
[まずい答え方]:「はい」と答えれば、今は殴っていないが、かっては殴っていたことになる。
「いいえ」と答えれば、以前も今も殴っていることになる。
「自分は妻を殴ったことはない」などと釈明すると、その証明を求められたりする(皆さんは、証明できますか)。本来不要な筈の説明を行わなければならなくなるなんて、全く馬鹿げた話です。
「そんなことは、バカバカしくて答える気にもならない」と答えれば、逃げた、やはり殴っているのだと言いがかりを付けられる。
要は、どう答えても、かつて、あるいは現在、妻(主人)を殴っていた(いる) ということを認めることになる。
[対策]:こういう質問に対しては、直ちに答えてはならない。「なぜ奥さん(旦那さん)を殴るというようなことを言うのか」、相手に説明させるべきである。相手に立証責任のあるときに、こちらがそれを引き受けてはならない。これを守らずに、自分で説明し出すと、その過程で揚げ足をとられたりして、次第に窮地に追いつめられてゆく可能性もある。
パラドックスの例
- 1.最大の数は1である。
最大数をMとすると、M≧M2。Mは1より小さくないからM2≧M。故にM2=M。両辺を0でないMで割って、M=1。
[解説]:最大の数が1とはおかしいですね。これは、最大の数があると思ったところに間違いがあるのです。だから、Mで表した式そのものは、全くのナンセンスです。
- 2.二分法
旅行者は目的地までの半分の距離の点を通過しなければならない。さらにその半分の点も。以下同様で無限の点があり、結局目的地に達することはできない。
[解説]:1,2,3,・・・,無限大という数列を列挙し終ることは、不可能です(これは真理)。
一方、あるところまで行く場合を考えると、始点から終点の連続的な空間の中にも、番号をつけた無限個の離散的な点が存在する(これは誤り)。即ち、番号をつけた無限個の離散的な点は存在しない。それなのに、あたかも無限の点が存在し、それらの点に到達し通過しなければならない、と置きかえるところ誤りがある。実際には、認識または指摘できる点の数は有限なので、そこを通過することは容易です。もし、意地悪な人間に「この点を通るか?」といろいろと質問されたならば、それらの点は、有限個にとどまるので「全て通る」と答えればいいのです。その通過時刻は、旅行者の速度と初期位置を与えれば容易に計算できます。
- 3.アキレスと亀
亀はアキレス(ギリシャの英雄)の前方から歩み出す。アキレスは同時に走り出すがまず亀のいた場所に到達しなければならない。 その時、亀は少し前方に進んでいる。アキレスはまたそこまで行かなければならず、その時亀はさらに先にいる。 この過程は無限に繰り返され、アキレスは亀を追い越すことができない。
[解説]:アキレスと亀がいる点は無限に認識・指摘できる訳ではないのに、2と同様に、あたかも無限にあるかのように置き替えるところに誤りがある。実際には、アキレスがここにいたときに亀はここにいた、というふうに認識した点だけが点として存在します。認識または指摘できる点の数は有限なので、そこを通過するのになんの不都合もありません。この点を通るかと問われる点は全て通ると答えればいいのです。その通過の時刻も両者の速度と初期位置を与えれば容易に計算できます。
2,3に共通するところは、次々と点は指摘でき、その操作(つまり、すでにとった有限な点に加えてさらにもう一点指摘できるということ)に終りはない、ということを、その操作がすべて終って番号のついた無限大の点がすでに実在しているはずだと錯覚するところが、パラドックス成立の理由です。無限個の点を数えようとしても、その操作は終ることがないので、アキレスが亀に追いつくことがないなどと思う訳です。
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