NPO法人マイスターネット 第18回講演会(2007.8.25)資料

象とアリの体重は同じか ―― 決断の条件 ――

                 占部浩一 (ヴェリタス基礎科学研究所所長、基礎科学マイスター)

                                 e-mail: urabe@gakushikai.jp

 

 

決断の手順

事実の認識

期待像の形成

いくつかの対応策による結果の推定

その結果の比較

対応策の選択

 

事実の確認・定量性

判断を下すためには事実を定量的に知ることが必要な場合がある。近代科学は定量的な測定によって法則がつくられ発達した。

・南太平洋のツバルという島国の小国は気候異変により沈みそうだという。しかし、平均潮位は変化していないという。―― 干満の差が大きくなった。

・海岸と内陸とでは平均気温が同じでも、朝晩の冷え方が違う。

・バルザックは一日にコーヒーを50杯飲んだ。―― カップが小さかった。

・成功するかどうか、2つに1つ、確率は50%という議論。――言葉の上で2つに分けただけで、各場合の重みを考えていない。

・データを一部だけ出して、自分に都合のいい結論を出そうとする議論に警戒する必要がある。

  ダイオキシンについて:産業廃棄物の焼却量と所沢周辺の乳児死亡率のデータは、共に増大して

いるところだけ切り取って表示されていた。その後焼却量は増加、死亡率は低下。

  少年凶悪犯罪の件数:1960年頃に比べて2000年頃は約1/4になっているが、それは示さず、1/7

程度であった1990年頃からのデータを示して少年犯罪が凶悪化していると称する。

・象、キリン、牛、犬、アリ、・・・などと名前を並べていると、それぞれが同等な価値を持っているような錯覚に陥ることがある。それぞれの種で個体の数も違うし個体の重さも違う。

・国連加盟国はそれぞれ一票をもっていて対等風であるが、各国の人口、国力等には大きな開きがある。

・日本では各個人は法のもとで平等であるが、実生活では能力・環境などは平等とはいえない。

・ありがとう、ばかやろう、等の言葉をかけることで、氷の結晶がきれいに整った六角形になったり、崩れた汚い形になったりするという話がある。この話を生き方にも拡張したがる人がある(小学校の道徳教育に使われたという)。―― そもそも、きちんと条件をコントロールした実験か。定量性が問題。統計的検定で有意差があるか。

 

暫定的対策

確実にこれが理由だと言い切れる根拠はないが、非常に疑わしいと思われることにどう対処するか。気候異変は地球温暖化によるものか。地球温暖化は人間のせいであるか。ハッキリした根拠を掴んだときには、すでに手遅れで有効な対策は実施できない、という可能性のある場合にどうするか。ピントはずれだったと後で判明するかも知れないような対策でも、皆が合意すれば行うのは1つの方法ではある。

 

決断の基礎

・感情、理性のどちらが優位に立つかは、問題によって、また人によって異なる。

・多数の利益、自己の防衛、等の価値判断基準があるとき、どれを重視するか。

 

1人を殺してその結果大勢の人を救えるなら、罪のない人でも殺してよい。という議論に賛同できるか。OKなら、飢饉の時に、何人かに1人を殺してその肉を食べて生き残るのはどうか。あるいは、ホームレスを捉え、その臓器を何人かに移植した方が世の中のためになるという議論はどうか。

 

[トロリージレンマと歩道橋ジレンマ(変形版)

レール上を走るトロリーがある。これには5人の乗客が乗っている。トロリーが下り坂にさしかかったとき、その制御系が故障し、暴走を始めた。道路にいた通行人がこれに気づいたが、そのとき2つの選択肢がある。1つは、登り支線へポイントを切り換えることであるが、あいにく登り支線には通行人が、これに気づかないで立っている。ポイントを切り換えればこの人は死亡するだろうが、5人は助かる。もう1つの選択肢は、現在のレール前方脇に肥った人が立っている。この人を線路上に突き飛ばせば、軽量のトロッコは止まるだろうが、肥った人は死亡する確率が高い。

 

思想の基盤 (身体的特性+精神的特性+) 体験

 体験

  経験した現実

  情報取得(記述、談話、映像、再構成された事象、等)

  思考

 

 体験の拡大

  ・視野が広がり、判断の基準が変わる可能性がある。

 体験の欠如

  ・与えられた環境によるもの  古代でない、王族でない、別の性でない、原爆に遭わない

  ・意図的な排除  強盗、殺人など、自分の価値観・感性により忌避することも多い。

 

どの程度のことを議論・行動において根拠とするか。知識・体験の広さにより、個人の頼りとする根拠は異なる。

・無知は罪悪なり、という言葉があるが、罪悪とは言えないにしても、無知のために不利益をこうむることはある。津波の危険性を知らず、逃げない。雷鳴のひどいときに、逃げない。

・自分の直接的な体験以外のものにも心を開いていないと、知識が拡がらない。神、霊などに関しては体験者の話を聞かないと無縁の人も多い。

・遠隔治療、祈りによる治癒なども、体験者の話を聞くか、自分で体験するかしないと現実にあるとは信じられない。

・どういう状況があり得るかということを知っていると、知らない人とは考え方に差が生じる。

例。排中律 「ABでもなく非Bでもないものであるということはない(つまり、ABか非Bかのどちらかで、その中間ということはあり得ない)」を認める人は多いが、次のような問題を考えると排中律の適用性に疑問が生じる。「πの小数部分で710個続くことはあるかないかのどちらかである」―― 実際には決定できるかどうか分からない。

 

効果対費用

・リスク減少のために費用をかけることがあるが、得られる効果との兼ね合いで引き合うかどうかが決まる。

・狂牛病対策はひきあうか。

 

現実の優位性

・現実に起きることに関しては矛盾ということはない。理論に合わない場合は理論を修正しなければならない。

・さまざまな概念、理論も現実に立脚しないと空論になる恐れがある。

  今:数学的な点的な時刻ではなく、幅をもつ。

  速度:動きが前提になり、幅のある時間が考えられるところで意味をもつ。ある(点のような)瞬間における速度(その他の属性も)というのは時間幅を小さくしたときの極限値である。厳密に言えば、瞬間には何も認識できない。

  無限:1,2,3,・・・と自然数を数えるような、操作に限りが無いという意味の無限は考えられるが、無限個の点で線が構成されているというような概念は、現実には想定不能である。

 

価値観の差異

・安倍首相は閣僚を庇い、罷免しなかった。一般の人との差が目立つ。

・正義に反する繁栄は結局は悲劇に終わるという教訓も、当面の行動の抑止力にはならない。後が(人が)どうなろうが、現在金が儲かればいいという生き方もある(中国の商人)

・将来を見越して行動できる人が、法律をつくるとか、権力を握って強制するとかしないと、自分の考えに執着している人の行動を変えられない。

・ダイエットに成功しない人も、糖尿病でこのままでは死ぬと医者に言われると減量できる。

 

取り返しのつかない悲劇

・社会保険庁の年金問題では、不完全なシステムの構築者とその上司の責任は重い。――容易に想像されることを無視した。

・回転ドアの危険性も容易に想像されることであった。

・複数の人による真剣なチェックやシミュレーションでかなり安全性は高まる。