シェイクスピア人間学

 −マクベスに見る夫婦像―

 

T。登場人物

   ダンカン          スコットランド王

     マルカム        ダンカン王の息子            マクベス夫人 

     ドナルベイン        同上                  マクダフ夫人

   マクベス          王の軍を率いる将軍          魔女

   バンクォー           同上                  亡霊、 幻影

     フリーアンス      バンクォーの息子

   マクダフ、 レノックス、ロス、メンテイース、アンガス、ケイスネス     スコットランドの貴族

   シーワード         ノースアンバランド伯、イングランド勢の将軍

   小シーワード        シーワードの息子

   少年             マクダフの息子

 士官、門番、英国王の侍医、スコットランド王の侍医、その他

 

U。あらすじ

    時は西暦1000年頃、場所はスコットランド。将軍マクベスとバンクォーは、荒野で三人の魔女と出会い、

マクベスは、「やがて王になる者」、バンクォーは、「王を生み出すもの」と予言される。

    マクベス夫妻は、城に泊まりに来たダンカン王を暗殺。翌朝、身の危険を感じたダンカン王の息子のマルカムはイングランドへ、ドナルベインはアイルランドへ逃走。マクベスが王位に就く。

    魔女の予言を一緒に聞いたバンクォーは、身の危険を感じ息子のフリーアンスと逃走するが、バンクォーは殺害され、フリーアンスは逃げます。不安に駆られたマクベスは、他の人には見えない亡霊に悩まされる。

    マクベスは再び魔女たちと合い、「マクベスは滅ばない、バーナムの森がダンシネーンの丘に向かってくるまで

「マクベスは殺せない、女から生まれてきた者には」という新たな予言を得て安心する。

  貴族マクダフは、祖国スコットランドを救うため、イングランドに逃げたダンカン王の息子マルカムを訪ね奮起を期待する旨伝えると、最初は煮え切らなかった王子も胸襟を開き、イングランド王の援助を得て、スコットランドに進軍する予定だと知る。そこでマクダフの留守中に妻子が暗殺されたことを聞き、ともにマクベス討伐を決起する。

  マクベス夫人は罪の意識に苦しみ、夢中歩行をして、しきりに手をこすり、血の汚点を洗い落とす身振りなどをする。一方、ダンシネーンの近くに、メンティース、アンガス、レノックス達スコットランドの貴族達が進軍し、マルカム王子がイングランド軍の援助を得て、マクダフ、シーワードとともに彼らと合流する。マクベスはダンシネーン城を強固に固めるも、本人は半狂乱。敵を追い返すと息巻いていたが、マクベス夫人の死の知らせにマクベスは無常を感じる。マルカム王子率いる軍はバーナムの森の枝を頭上にかざして攻め寄せる。月足らずで母のお腹を裂いて生まれてきた男マクダフによってマクベスは倒される。

 

 

 

 

V. 時代背景と上演史

   8世紀末よりデーン人(通称ヴァイキング)が、イギリスを襲撃。1016年ついにデンマーク王クヌートが王に就く。

  1042年までデンマーク王がイギリス支配。その後1066年にはノルマン(フランス)に支配される。

   マクベス初演は、1606年デンマーク王をイギリスに迎えたとき、当時のジェームス1世の宮廷でされた。ちなみにジェームス1世は、スコットランド王だったが、エリザベス1世に子供がいなかったためイングランド王に迎えられたが、マクベスに登場するバンクォーの子孫。デンマーク王はジェームス1世の義弟。

 

W. マクベスとマクベス夫人の台詞集

1.第1幕 第5場

マクベス夫人、マクベスからの手紙を読みながら登場

「彼ら(魔女)に出会ったのは凱旋当日のことだ。その後確証によって知ったが、彼らは人知の及ばぬ力を持っている。はやる心で更に問いただそうとしたが、彼らは自ら空気と化し、その中に消えてしまった。そこに国王からの使者が来て‘コーダーの領主’と挨拶するではないか。その称号こそ魔女どもが呼びかけたものだった。その先を見通してか、万歳将来の国王!とまで言ったのだ。このことをお前にも知らせておきたかった。偉大なる地位をともに分かち合うべきお前に、どのような地位が約束されているかも知らせず、ともに喜ぶ機会を失わせたくなかったのだ。」

あなたはグラームス、そしてコーダー、やがては約束されたものにおなりでしょう。気がかりなのはそのご気性、あまりにも人情という甘い乳が多すぎて近道をえらべないのでは。あなたは偉大な地位を求める野心はお持ちだけど、それに伴うはずの悪心はおもちにならない。手に入れたいと望みながら手を汚すことは望まない。さあ早く帰っていらっしゃい。あなたの耳に私の強い心を注いで上げる私の舌の勇気で黄金の王冠からあなたを遠ざけている邪魔者を追い払ってあげる。…。 (下線部のセリフから、‘マクベスはある意味マクベス夫人の子供だ’と言う学者もいる。)

そこに使者登場。ダンカン王がマクベスの城を訪れることを知らせる。

マクベス夫人:

 …。さあ死をたくらむ思いに付き添う悪魔たち、この私を女でなくしておくれ!…憐れみ深い人情が訪れて、私の決意を揺さぶり、その決意が恐ろしい結果を生み出す邪魔をしないように。

マクベス登場

 あなたのお手紙を読んで、何も知らない現在を飛び越え、今の私は未来がこの瞬間にも見えるような気がする。

マクベス:ダンカンが今夜ここに来る。    マクベス夫人:お発ちになるのは?

マクベス:明日とのことだ。

マクベス夫人:いいえ、その明日は決して日の目を見ないでしょう。…世間を欺くには世間と同じ顔つきをなさらなければ。…今夜の大仕事、安心して私にお任せなさい。それによって来るべき私たちの歳月に至上の大権が訪れるかどうか決まる大変な事業です。

マクベス:後で相談しよう。 マクベス夫人:さ、しっかりなさって。暗い顔色は恐れている証拠、すっかり疑われます。後のことは私が引き受けます。

 第1幕7場

      マクベス、王殺しを逡巡。

      マクベス: このことはもう打ち切ることにしよう。王は栄誉を与えてくれたばかりだ。…。

      マクベス夫人: では先ほど身に着けていたあの望みは酔っ払っていたの? …。

                これからはあなたの愛もそんなものだと思うことにしましょう。…。

      マクベス: もしやりそこなったら?

      マクベス夫人: やりそこなう!…。護衛のないダンカンに対し、あなたと私で出来ないことがありますか。

                 (夫を叱咤激励)

      マクベス: 男の子だけを生むがいい、恐れを知らぬその気性からは、とうてい男しか生まれまい。

第2幕第1場

     マクベス、短剣の幻影を見る。(心の葛藤)   鐘が鳴り、ことを実行に移す。

第2場

    マクベス: 叫び声が聞こえたようだった、「もう眠りはない、マクベスは眠りを殺した」―あの無心の眠り、

心労のもつれた絹糸を解きほぐしてくれる眠り、その日その日のせいの終焉、つらい労働のあとの 

水浴、傷ついた心の霊薬、大自然が用意した最大のご馳走、人生の饗宴における最高の滋養。

    マクベス夫人:なにおっしゃるの?

    マクベス:家中に響き渡る声で叫んでいたのだ、「もう眠りはない、グラームスは眠りを殺した、したがって

        コーダーにもう眠りはない、マクベスにはもう眠りはない」

     Methought I heard a voice cry, “Sleep no more!

       Macbeth does murder sleep”----the innocent sleep,

       Sleep that knits up the ravell’d sleave of care,

       The death of each day’s life, sore labor’s bath,

       Balm of hurt minds, great nature’s second course,

Chief nourisher in life’s feast…

Still it cried, “Sleep no more!” to all the house;

Glamis hath murder’d sleep; and therefore Cawdor

Shall slee no more----Macbeth shall sleep no more’.

    第3場

     ダンカン王殺害の発覚

   第4場

     それぞれ、イングランドとアイルランドに逃げた2人の王子は、逃げたことにより王殺害の嫌疑がかかる。

第3幕

   王になるも、いやなったからこそ不安なマクベス。魔女に子孫が王になると予言されたバンクォーと

  息子のフリーアンスを消すことを命じる。 バンクォーは消されるが、息子は逃げる。

  宮殿の広間に宴会の準備がされ、マクベスが自分の席に座ろうとすると、そこにバンクォーの亡霊が現れ

  マクベスの席に腰掛ける。それでマクベスは自分の席がないと言う。

   不安に駆られるマクベスを、マクベス夫人は「あなたに必要なのは、命をよみがえらせる眠り」、と言って

  夫の不安を和らげようとする。

   イングランドの宮廷に逃れた、ダンカン王の息子のマルカムを、マクダフは訪ね、王の力を借りて、イングランド北部のノーサンバランド公シーワードの決起を促してスコットランドを平和にしようと企む。

 

第4幕

    マクベス、魔女を訪ね自分の運命をたずねる。マクダフに注意しろ、女の体内から生まれたものは

 マクベスに手向かうことができない、バーナムの森がダンシネーンの丘のほうに動いてこない限り、安泰

の予言。そしてマクダフがイングランドに逃げたという知らせを聞く。残された夫人と子供が消される。

マクダフ、イングランドにいるマルカムにスコットランドを救うよう懇願。ロスも来て、マクダフは、家族の死を知る。

 

第5幕第1場

   ダンシネーン場内。これまで強気一点張りであったマクベス夫人が、夢遊病となって、ろうそくを手に闇の中をさまよう。  精神に破綻をきたしてしまったマクベス夫人。 第3幕第2場で、

”What’s done, is done.”「やってしまったことはやってしまったことです。」と夫を叱責した夫人も、

”What’s done cannot be undone.”「やってしまったことは、とりかえしがつかない。」、と言う。

その様子を陰で見ていた医師は、「自然に反する行為は、自然に反するわずらいを生む。病める心は

耳を持たぬ枕に己の秘密を打ち明ける。」

第2場   スコットランドの貴族たち、イングランド軍が、ダンシネーン近くに集結。

第5場   マクベス夫人自ら命を絶つ。その知らせを聞き、マクベスは、

    「明日、また明日、そしてまた明日が、とぼとぼと毎日忍び寄り、ついには歴史の最後の音に到達する。

    これまでの全ての昨日は、阿呆どもに死に至る土臭い道を照らし出す。消えろ、消えろ、つかの間の灯火!

    人生は歩き回る影法師。哀れな役者だ。出番の間はふんぞり返って騒ぎ立てるが、そのあとは物音も聞こえない。大馬鹿者の語る物語だ。響きと怒りに満ちているが、意味はない。

   

    To-mor- / row, and / to-mor- / row, and / to-morrow     (弱強五歩格のリズム)

     Creeps in / this pet- / ty pace / from day / to day,

     To the / last syl- / lable of / record- / ed time;

     And all / our yes- / terdays / have light- / ed fools

     The way / to dus- / ty death. / Out, out, / brief candle!

    Life’s but a walking shadow, a poor player,

     That struts and frets his hour upon the stage,

     And then is heard no more. It is a tale

     Told by an idiot, full of sound and fury,

     Signifying nothing. 

 

参考文献

  今西雅章著 「マクベス」  大修館シェイクスピア双書

  河合祥一郎著 「シェイクスピアは誘う」小学館

  小田島雄志著「シェイクスピア全集マクベス」

  小田島雄志著「シェイクスピアの人間学」