NPO法人マイスターネット 第24回講演会(2008.3.29)資料

エントロピーについて

                 占部浩一 (ヴェリタス基礎科学研究所所長、基礎科学マイスター)

                                 e-mail: urabe@gakushikai.jp

 

 

エントロピーの定義と関連事項

 

T.熱力学的定義と関連事項

 S=Q/T

  S: 絶対温度T(摂氏a度のとき、T=(a+273.16))において熱量Qの移動に伴うエントロピー変化

 

熱力学の法則

 マクロな物質系についての経験から導かれた法則である。人類の経験を集約した貴重な叡智であるという説が多いが、経験の範囲外のことについての妥当性は保証されないという見方もできる。

 第0法則 ABが熱平衡にありACが熱平衡にあるとき、BCも熱平衡にある」

   →温度概念の妥当性

 第1法則「内部エネルギーの増加= 与えられた熱量+与えられた仕事量」

   ΔU=Q+W

   →エネルギー保存則

 第2法則 表現はいろいろある。

クラウジウスの表現

「熱が高温物体から低温物体へ他に何の変化も残さずに移行する過程は不可逆である」

「低温物体から高温物体へエネルギーを移動させ、他には何の変化も生じさせないような過程は不可能である」

ケルビンの表現

  「仕事が熱に変る現象はそれ以外に何の変化もないならば不可逆である」

  「熱源から熱を吸収して、それをすべて仕事に変換し、他に何の変化も生じさせないような過程は起こり得ない」

また、

  「第二種の永久機関をつくることはできない」

  「孤立系のエントロピーは不可逆変化によって常に増大する」

    孤立系: 回りから隔離されている系

    可逆変化: 平衡状態を保ちつつ起こる変化

 第3法則 「絶対零度における物質のエントロピーは0である」

 

絶対温度Tにおける物質のエントロピーSは、定圧比熱Cpを用いて

S=0TCpd(ln T)

と計算できる。 lnは自然対数 (lnA=2.303log10A)

 

エントロピーの移動は熱の移動、物質の移動に付随する。

 金属棒で一端の温度がTH、他端がTLで熱Qが高温部から低温部へ移動すると、エントロピーは高温部で Q/ TH 減り、低温部ではQ/ TL 増える。 TH > TL だから Q/ TH < Q/ TL 。

全体でのエントロピーの変化は Q/ TLQ/ TH >0

 

自由エネルギー

F=U-TS          ヘルムホルツの自由エネルギー。Uは内部エネルギー。

G=H-TS   (H=U+PV)   ギブスの自由エネルギー。Pは圧力、Vは体積。

 

個々の粒子の挙動は運動方程式に従うが、マクロな物質(粒子の集合体)の状態の挙動は自由エネルギーで記述される。変化前後を添え字の1,2で表示すると

  定温定積の変化で

   ΔF=F2-F1<0のとき変化は進行し、ΔF=0のとき平衡状態にある。

  定温定圧では

   ΔG=G2-G1<0のとき変化は進行し、ΔG=0のとき平衡状態にある。

 

自由エネルギーの変化分は外部への仕事として使えるエネルギーである。

エントロピーの増大はエネルギーの劣化とも表現される。

 

使用可能なエネルギー

  エントロピーの増大 使用可能なエネルギーの減少 産業廃棄物 公害  生態系の破壊

 

U.統計力学的定義

マクロな(巨視的な)物体を構成するのは原子・分子等のミクロな粒子であり、それらからマクロな物体の性質を導き出すのが統計力学である。

 

 S=klnW

  kはボルツマン定数(1.381×10-23JK-1)Wは巨視的に一つの状態と見なせる状態において、微視的に取り得る状態の数 (例えば、1気圧、20℃で1リットルの気体があるとき、マクロには一つの状態とみられるが、ミクロにみると個々の気体分子の空間的位置、動きの方向・速度、などはさまざまであり、状態の数は膨大なものになる)

 

この定義と熱力学的定義とが等価であることは、簡単な気体分子の集合体については証明されている。

 

エントロピーが増加するということは、場合の数の多い状態に移るということである。それぞれの場合の実現確率を等しいとおけば(等重率の仮定)確率の大きい状態ほど実現され易いということになる。

 

秩序だった状態の場合の数は少ないとすれば、エントロピーは無秩序性の尺度とも考えられる。すなわち自発的変化によりエントロピーは増大し系は無秩序化してゆく。

 

V.情報論的定義

  T、Uとは異質であり、kを含まない。ただ、形式的に統計力学的エントロピーとの類似性がある。

物質を扱うものではなく事象を対象とする。エントロピー増大則はない。

 

1回の試行で起こり得る場合の数がWであり、そのW中のすべての事象が等確率であるとき、その試行で得られる情報量は  H=logW   (底を2としたときの単位はビット)

一般に各事象の確率がPiのとき、平均情報量(その情報源のエントロピー)

   H=−ΣPilogPi

である。

 

応用

孤立系ではエントロピーは時間が経過すると増大してゆく。

・これからエントロピー増大の方向が時間の矢の向きであると言われることがある。

・これを応用して、室内に図書などが乱雑に放置されて、部屋の内部がだんだん雑然としてゆくのもエントロピーが増大してゆくことの一つの例だと言う人もいる。

 

・生きている生物体は、死体とは異なって、エントロピーが増大して崩壊するという状況を免れている。これは環境から負のエントロピーを吸収して生活によって生じるエントロピー増大を打ち消して、一定のエントロピーを保っているためだという説がシュレーディンガーによって唱えられた。

今では、負ではなく正のエントロピーを吸収するが、余分なエネルギーを外部に捨てることによってエントロピー一定の状態を保つ、と理解されている。

 

・地球は物質的には閉鎖系であるが、エネルギー的には開放系であり、太陽からエネルギーを受取り、地球からは赤外線放射の形で宇宙にエネルギーを放出している。

・地球のエントロピー収支

 太陽から受け取る熱Qに付随するエントロピーはQ/T1

 同じだけの熱を地表、上空の水、空気等から宇宙へ放射する。それに付随するエントロピーはQ/T2

 T1>T2で、結局、Q/T2Q/T1(>0)のエントロピーを宇宙に捨てる。その量以下であれば地球上の諸活動によってエントロピーが生成されても地球上のエントロピーが増大することはない。

 

・孤立系ではエントロピーが増大して最大値に達し、そこで一切の変化は生じなくなる。これを流用して宇宙もやがてはそのような動きのない熱死の状態を迎えるという説もある。しかし、宇宙が孤立系であるかどうかは分からない。さらに孤立系であっても中の小部分ではエントロピーの変化があってもよい。全系でエントロピー最大になっても部分系の状態が固定化する必然性はない。

 

・欠陥のない完全結晶はできない。欠陥のあった方がエネルギーは増加するが、エントロピーも増加しその寄与により自由エネルギーが下がるので、そちらの方向に反応が進行する。

 

・問題を解くための情報獲得に必要な試行数の評価

 相手の考えている10を越えない自然数を当てるため、イエスかノーかだけの回答をもらえる条件で質問するとき、何回質問したらその数を当てることができるか。

1~10を等確率と考えて情報エントロピーは  H=log10=log8+log1.25=3+0.>3

1回の質問で得られる情報量はlog2=1

確実に情報を入手するためには log10/log2 (>3)  回以上の質問が必要となる。回数は整数だから4回以上が必要となる。